労働災害は、労働安全衛生法では、
労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡することをいう。
と定義されています。
働く人が、仕事が原因でケガしたり病気になったりすることです。
三大労働災害
墜落・転落災害、崩壊・倒壊災害、重機災害(挟まれ、激突され)を三大労働災害と呼びます。
建設業では、イメージの通り、他の業種と比べて重篤な災害になる可能性が高くなります。
原因は、色々言われていますが、扱うものが非常に大きく、それに伴って大きな出力の機材を使用したり、大きなものの近くによるため、高い場所での作業が必要になったり、扱うもの自体も非常に重いものが多いという理由があります。
また、工場のように安定した環境でもの作りをしているわけではなく、さらに、基本的にはすべて受注生産で似たものはあっても、同じものは作らないため、その違いによる危険が発生する余地があります。
墜落・転落災害
足場や床の端部、開口から地面や下のフロアに落ちる災害です。何十メートルも高い高所からの墜落・転落を想像するかもしれませんが、そういった解りやすい危険には優先的に対応をするため、重篤にはなりやすいものの件数は、あまり有りません。戸建ての屋根くらいの高さからの転落が非常に多く発生しています。規模が小さいため工事費が潤沢ではなく、しっかりとした対策が講じにくいという背景があると言われています。戸建ての屋根の角度は、30度程度でスキーのジャンプ台とほぼ同じです。少し濡れていたり、防割機能の無い靴を使用するなどで滑りやすくなると滑落しやすいのは、理解できると思います。
崩壊・倒壊災害
足場や資機材、掘削した際の土などが崩壊・倒壊する災害は、重量のあるものはそれだけで大きなエネルギーを持っています。物理の時間に習った位置エネルギーが倒壊することで運動エネルギーに変換されて、その先に人が居れば、容易に重篤な災害に至ります。土砂崩壊の場合は、そのエネルギーによるリスクに加えて、窒息のリスクもあります。崩壊・倒壊は、単純にバランスが悪かったり、固定されていないことが原因の場合もありますが、台風や地震などの自然災害がきっかけになることもあります。地震や突風は、予測ができないため、予め固定したり強度をあげるなどの対応をしておきましょう。
重機・建設系車両機械災害(挟まれ・激突され)
建設工事は大きなものや重いものを扱うために重機を使用することが多くあります。人では出し得ない大きな力を出しているため、接触すればケガに至るのは当然です。重機が単独で動いていれば、ケガのリスクも有りません。近年では、遠隔操作による無人化も進んでいますが、あくまでも、重機自体の操作のみであり、完全に人が介在しない工事の割合は、まだまだ多くはありません。さらに建築工事では狭い場所での工事も多く、挟まれ災害のリスクは高くなります。土木工事の場合は、自然との戦いとなるため、重機自体の転倒などのリスクが高くなります。
最も多い労働災害
全産業を通して最も多い労働災害は、転倒災害です。道端で足がもつれて転んだり、子供の運動会で張り切って転んだりと仕事以外でも、非常に身近ですが、仕事中に転んでそれによってケガをするとそれはもう労働災害になります。飲食店では、切れこすれよりも、転倒災害が多いというデータがあります。厨房は足元が濡れていたり、油膜が出来ていたり、水に対応するための段差があったりと転びやすい環境があります。さらに忙しい店の厨房だと狭い中を走り回っていると思います。改めて考えると転倒のリスクは以外に多くあるので、納得できるのではないでしょうか。
オフィスでの労働災害
仕事でケガというと、建設業や製造工場のような業種を思い浮かべるかもしれませんが、オフィスでもケガをする可能性は有ります。
オフィス内の通路は、
キチンと通路幅を確保しているでしょうか?
つまずきやすい段差などは有りませんか?
最初と最後に見切り板などの無い認識しにくいスロープは有りませんか?
これらは、転倒をする可能性があり、単純に転んだだけで済めば良いですが、手をついた拍子に手首や指、橈骨を骨折したり、横にゴロンとなって鎖骨を骨折したり、転んだ先に置いてあったものに目をぶつけて失明したりなど通路1つをとっても、色々なリスクが考えられます。
扉や窓で指を挟んだり、ぶつかったり、カッターやハサミで切ってしまったり、などなど案外危険はあるものです。
労働災害補償保険(労災保険)
労働者災害補償保険(労災保険)は、労働災害が発生したときにその治療費や仕事を休まざるをえなくなった場合の収入の補償をしてくれます。保険料は事業者(会社)が全額支払い、補償は被雇用者が受けます。
基本的には被雇用者が対象ですが、会社の中で管理職とされていても、働き方の実態を踏まえて判断されます。過去に某ファストフードチェーンで名ばかり店長、名ばかり管理職が問題になりましたが、法律上、管理監督者に該当すると事業者は主張したものの、上位者からの指揮命令のもとに働き、裁量がほぼ無い状態であったことから、完全に否定されました。
これは、残業代や労働時間、休日などの労働基準法の内容について争われた事例ですが、労働安全衛生法は、労働基準法の一部を切り出して出来た法律ですから、考え方は同じです。
役職の名前ではなく、実態で判断されるため、心当たりのある場合は、至急改善しましょう。
通勤中のケガ
労働災害は仕事が原因となったケガや病気と書きましたが、通勤中に起きたトラブルによってケガをしたり、病気になった場合も、保険で補償されることがあり、こちらは、通勤災害と呼ばれています。
通勤災害も労働災害として扱われますが、事業者には責任が無いため、通常の労働災害と異なり、休業3日目までの会社からの補償は受けられないことがあります。
会社帰りに途中のコンビニなどに寄って買い物をして、その後、自宅に帰りつく前にケガをした場合は、通勤災害として認められますが、ちょっと一杯やってしまうと通勤とは認められなくなるので注意が必要です。飲み過ぎには注意しましょう。
さいごに
社員の労働災害による事業へのリスクを評価したときに「事業に影響はない」と判断したとしても、労働災害による痛みやその後の生活の不自由さは、社員が負担することになります。
また、近年は、労働力不足が問題となっていますが、働く人々は、社会の資本であり、活躍して価値を産み出して貰わなくてはいけません。労働災害で死者や永久労働不能の被害者を出してしまうことは、その不足している貴重な資本を失うことを意味します。
一方、事業者(会社)の立場の話をしましたが、事業者の努力だけでは労働災害を防止することは出来ません。社員やお客さん、その他のステークホルダーの協力が不可欠です。とかく、経済的な論理だけを優先しすぎると職場の環境は悪化しがちになります。サービスや商品の先には働く人がいます。いくら、ロボット化などが進んだとしても、完全に人を排除することは、まだまだ先の話です。
安全衛生の対策は、保険に例えられることがあります。災害が起きなければ、無駄だったという評価になってしまったりします。完全に未来を予測できる人はいません。無駄かもしれないけどしっかり対策を講じて、是が非でも社員を守ろうとする会社とそうでない会社。どちらが良い会社でしょうか。取るべき選択肢は決まっていますね。